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あなたの音楽、音量は適切ですか?【ミックスマスタリング学園#1】

2023.01.16


良い音や悪い音がどういうものか言葉で説明するのは中々難しいものですが、音が台無しになってしまうことは少しの工夫で避けられるかもしれません。

人間は大きな音を良いと感じる

全く同じミックスであれば、人間は音が大きい方を良い音だと感じる性質を持っています。例えば音楽を聴く時についついボリュームを上げてしまう人も多いのではないでしょうか。そう考えると、ミックス、マスタリングする時は少しでも大きな音で仕上げたいと思いますよね。

音量を上げてみる

人間は瞬間的にではなく平均的に大きい音を大きく感じる傾向があり、人間の感覚に近い値を示す尺度としてラウドネスと呼ばれるものがあります。

ラウドネスを上げるためにはコンプレッサーというツールが利用されます。音の大きな部分を圧縮したり制限することで平均的な音量が大きくなり、人間の耳にとっても大きく感じられる音になるのです。

コンプレッサーがもたらすもの

コンプレッサーを使えばラウドネスを上げることが出来ますが、それと同時に音色にも影響を与えます。なので、大きな音に仕上げることと意図した音色に仕上げることはトレードオフの関係になります。Ozone 10のMaximizerは、なるべく音色に影響を与えることなく平均音量を高めることに特化したモジュールなので、マスタリングで最後の最後によく使用されます。ではMaximizerでどれくらい大きな音になったか客観的に確認してみましょう。

Maximizerを使えばラウドネスの値は大きくなっていきますが、音量と音色はトレードオフの関係にあるため深くかけすぎると音色への悪影響が顕著になっていきます。音色にどんな悪影響が出たかを知るためにはGain Matchという機能が役に立ちます。

Gain Matchを使えばMaximizerを使う前と後の音色を同じ音量で聴き比べることが出来るため、音色を保ちつつ音量も大きくするちょうど良いポイントを探すのに役立ちます。

では、音色さえ保てていればどこまででも音量を上げるのが良いのかというとそうではありません。以前、少しでも平均音量を上げることでシーンで目立ちたいと考える制作者の想いに呼応して、音色を犠牲にしつつ限界以上にラウドに仕上げた音源が世の中に溢れた時期がありました。音圧戦争と呼ばれるムーヴメントです。

リスナーに届く音が変わった

この音圧戦争は、折角アーティストの意図が反映されたミックスがリスナーの元に届くまでに破壊される不健全なものでした。そこで、ミュージシャンが再び音量ではなく音のことに集中出来るように、YouTubeやApple Music、Spotifyなどのプラットフォームでは一定以上のラウドネスで音楽を再生されない仕組みが設けられました。どれだけMaximizerを深くかけたとしても、こうしたストリーミングサービスの上では皆同じラウドネスになるように音量を下げた状態で再生されます。

ラウドネスという平均音量を制限したことによって、従来のコンプレッサーによる音量上昇が意味をなさなくなり、音圧戦争は終焉を迎えました。しかしこのラウドネスという尺度の実態や基準は未だ十分に理解されているとは言い難く、一部では今なお音楽を犠牲にして過度なリミッティングを続けているミュージシャンが存在し続けています。こうしたミュージシャンは現代では「不勉強な人」という評価を受ける恐れがあります。

Master Assistantの力を借りる

それでは、ストリーミングサービス上でちょうど良い音量のマスターを作るにはどうすれば良いでしょうか。ラウドネスのことを勉強し理解すれば自ずと自分がどんな音量のマスターを作るかも意識できるようになりますが、Ozone 10のMaster Assistantを使えばその判断をAIに委ねることが出来ます。

Master Assistantに従えば、MaximizerのThresholdがストリーミングプラットフォームの音量制限の付近で音色にも悪影響の少ないところに設定されます。もし、Master Assistantを使ってマスタリングした音源がそれまでの自分の音楽と比べて小さく感じられる場合、Maximizerを強くかけ過ぎていたのかもしれませんね。 

この記事を書いた人
iZotopeアーティスト
青木 征洋
作編曲家/ギタリスト/エンジニア
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