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壁のように厚みのあるギターサウンドを作りたい人へ(入門編)【ミックスマスタリング学園#13】

2023.07.03

日本のロック、ポップスにおいてリズムギターの音は楽曲全体の音圧を高めるために欠かせない存在と言えます。本記事では、Neutronを活用してリズムギターの厚みを最大化する方法を解説します。

まえおき

壁のようなリズムギターサウンドを作るためには、ミックスを始める前にクリアしなければならない課題が山のようにあります。

  • ギター、ピックアップの組み合わせ
  • ペダル、アンプ、キャビネットの組み合わせ
  • マイク選びとマイクのポジショニング
  • 演奏

これらが適切に選ばれ、行われることによって分厚いギターサウンドをミックスの中で実現するためのスタートラインに立つことが出来ます。つまり、ミックスの中でギターが上手く機能しないと感じる場合はレコーディングのフェーズに戻って考え直すのが最も効果的です。

しかし、レコーディングが適切になされたとしてもミックスでその良さを破壊することはあまりにも簡単です。そうならないためにもギターのプロセスのツボを覚えていきましょう。

EQを使う前に

ミキシングは自由な発想で行うクリエイティブな作業です。どこかの帯域が足りないと思ったらEQで足せばいいですし、多いと思ったら削ってかまいません。

ただし、その「足りない」「多い」という判断を正しく行うためにはEQを使う前にきちんとトラック間の音量、定位バランスが取られている必要があります。ギターの音が小さすぎる、または大きすぎる状態では正しい判断は出来ません。

問題になりそうなポイントに当たりをつける

ギターサウンドは前章で書いたような項目で大きく変わりますが、それでも共通して起こりがちな問題がいくつかあります。

  • ピッキングのアタック音
  • ブリッジミュートのローの膨らみ
  • ミッドの膨らみ
  • 不必要なローエンド/ハイエンド

これらにアプローチするための処理を考えてみましょう。

ピッキングへの対処

ピッキングのアタックはピックの材質やフォームによりますが、大体2kHz~5kHzあたりが強調されることが多いです。一音一音の粒立ち感を出すために必要な情報である一方で、ここが出過ぎていると耳障りになるだけでなくボーカル等他の重要な音をマスクする要因にもなります。リズムギターが細い/五月蝿いと感じられたらカットEQを入れてみましょう。

このあたりはギターの音色にも大きな影響を及ぼすので、カットEQを入れたことによってギターの派手さが損なわれる場合はEQノードをDynamicモードに変更し、ピッキングの瞬間だけリダクションが強く起きるようにすることも有効です。

ブリッジミュートへの対処

歪んだロックギターの場合ブリッジミュートによって低音を強調することが出来ますが、この低音の突発的な盛り上がりが楽曲全体をマスクしてしまうリスクは常に存在します。

まずはEQによるカットを試してみましょう。弦の数にもよりますが100~250Hzあたりから探し始めるのが良いと思います。ギターの荒々しさや生々しさを担保する成分なのでカットのしすぎにはご注意ください。

この成分もまた瞬発的なものなのでDynamicモードが有効です。EQを入れたことでギター全体の印象が軽くなってしまったと感じる場合はDynamicモードを試してみてください。

ミッドの膨らみへの対処

ピッキングやブリッジミュートへの対応でハイミッドやローを抑え込むと、ミッドが盛り上がってだらしなく膨らんでしまったように感じるかもしれません。これもEQによるカットで対処してみましょう。

ここでの注意点はカットをしすぎないことです。ギターのトーナルバランスは時代感と密接にリンクしており、過度にミッドを削ったドンシャリなサウンドは80~90年代の懐かしいギターのサウンドを想起させるおそれがあります。

不必要なローエンド/ハイエンドへの対処

楽曲のスタイルやジャンル、編成によってはエレキギターがローエンド/ハイエンドを担う必要が無いケースも多々あります。まずはローエンドから考えてみましょう。

ローエンドが過多になるのは例えば

  • マイキングが近すぎた
  • アンプのローが出すぎていた
  • 多弦ギターでボディ、ネックの剛性が甘かったり材が柔らかかった

といった要因が考えられます。ここまでの処理の結果ギターがくぐもっていたり柔らかすぎる印象を受ける場合はローエンドを疑ってもいいかもしれません。シェルビングで数dBカットするだけで改善するかもしれませんし、豪快にローカットを入れた方がかえってすっきりするケースもあるかもしれません。

逆に、ギターが軽く感じられる時はローエンドをブーストしてしまっても構いません。シェルビングで少し持ち上げるだけでも印象が変わります。

ローエンドが物足りないがあまりブーストするとブーミーになってしまう場合は、ブーストした帯域より少し上をカットすることでローエンドの重みを強調することも出来ます。

ハイエンドに関してはどのようにそのギターのトラックを録音したかに依存する部分が大きいです。アンプのTrebleやPresenceが出すぎていたりマイキングのポイントが中心に寄りすぎていると必要以上に明るい音になってしまいますが、こうしたチリチリしたトップエンドはバックグラウンドボーカルやシンバルのために空けておいた方が全体がすっきりとまとまります。

ローパスフィルターをかけるのが最もシンプルな解決法です。この時フィルターの傾きやQ値も色々試してみてください。

ハイエンドが物足りない場合はEQでブーストすることが出来ます。特にリボンマイク等で録音したやや暗めのトラックを明るくしたい場合、シェルビングEQでハイをブーストすると、その暖かみや適度な距離感、実体感を保ったまま明るさだけを強調することができるでしょう。

アシスタントの意見を聞いてみる

ミックスに行き詰まったら、また何から手を付けていいか分からない場合はアシスタントの意見を聞いてみましょう。Neutronのマザーシッププラグインを起動してアシスタントボタンをクリックしトラックを数秒間再生すると、アシスタントがそのトラックのギターサウンドに適したトーンカーブを割り出し、そこに近づけるEQ処理を行います。

Neutron ElementsではStart Listeningボタンを押してから同様にトラックを数秒再生して下さい。

Neutronによるマッチングの強さはスライダーを左右に動かすことで簡単に調整することができます。EQのポイントを自分で探すのが難しい場合でも、スライダー1つでギターの音作りを調整することが出来ます。

アシスタントの提案を参考にしつつ自分で微調整を行いたい場合はDetailed Viewのボタンをクリックしモジュールチェーンを表示させて下さい。SculptorモジュールとEQモジュールを確認することで、Neutronがどのようなトーンカーブを目指しているかを確認することが出来ます。

まとめ

ギターは低域から高域まで広くまたがるとても目立つ楽器なので、適切なEQ処理を行うことがミックス全体の印象に大きな影響を及ぼします。本記事では入門編としてEQを用いた音作りを紹介しましたが、思いついたアイデアは何でも試してみて下さい。