チュートリアル

レベル、ボリューム、ゲイン、ラウドネス? -音量の色々- 【ミックスマスタリング学園#16】

2023.08.14

普段我々がオーディオを扱っていると音量に関する様々な用語と出会います。音というのは最終的に耳で判断するものなので、聞こえが良ければそれが正解ですが、そこに至るまでに出てくる音量に関する用語を正確に理解することが、良い音に辿り着く近道となるケースも多々あるでしょう。

本記事では、レベル、ボリューム、ゲイン、ラウドネスといった、音量に関する用語を定義や慣用的に受け入れられている意味から紐解いていきます。

 

広義的にはレベルもボリュームもともに音量を示す単語です。なので、その違いをそこまで意識しなくても問題ありません。

もう少し違いに着目すると、レベルは波の大きさを計測した値と言うことが出来ます。アナログ領域では例えば電気信号であればその電圧の振幅をVで表したものが、音であればその圧力をNやPaで表したものがレベルです。

デジタル領域では0dBFSという最大値に対してどれだけ小さな/大きな値を取っているかの比率をdBで表したものがレベルです。DTMを始めた人が最初に目にするレベルはおそらくこちらでしょう。

いずれにせよ、レベルは客観的な計測値です。これに対し、Volumeは音量を操作するコントロールに付けられた名称であることが多いように思います。例えば

  • ボリュームフェーダー
  • ボリュームノブ
  • ボリュームスライダー
  • といったコントロールを我々はよく目にします。逆に、メーターのような触れないものに対してボリュームという名前が付くことはありません。

    このように、レベルとボリュームはいずれも音量に関連する語句ですが、前者は計測された音量を表し後者は音量を操作するコントロールに割り当てられるものだという違いがあると言えるでしょう。

     

    次に音量に関連する単語としてゲインがあります。ゲインというのは日本語に直すと利得です。つまり、信号がどれだけ大きく/小さくなったのかという変化量を表します。

  • (例)
  • レベルが-6dBから-3dBになった → +3dBのゲイン
  • レベルが-4dBから-10dBになった→-6dBのゲイン
  • エフェクトプラグイン等においては、音量に変化を生じさせる項目にゲインという名前が割り振られます。

  • インプットゲイン
  • アウトプットゲイン
  • メイクアップゲイン
  • などが主な例です。

     

    ラウドネスはここまで紹介してきた用語とは異なり主観的、感覚的な音の大きさを表すものです。つまり「耳で聴いた時に脳がそれをどれくらい大きな音だと感じ取ったか」がラウドネスです。

    一方、この主観的な印象値をなるべく客観的な数値として表すことを目指して使われているのがラウドネスメーターです。ラウドネスメーターを使うことによって、その信号が人間にとってどの程度の音量に感じられるのかの目安を客観的に定量化することが出来ます。

  • ラウドネスメーターによって計測された客観的な値(単位はLUFS)
  • 主観的な印象としてのラウドネス
  • をいずれもラウドネスという単語で扱うため混乱にご注意ください。

    またややこしいことを言いますが、LUFSという単位で計測されたラウドネスもまたレベルの一種です。音の大きさを表す客観的な数値という要件を満たしていますよね。

     

    ついでなので音圧にも触れていきましょう。音圧という単語は2つの異なる事象を表します。

  • 音波によって単位面積あたりにかかる圧力([N/m^2]もしく[Pa])
  • 耳で音を聞いた時に感じる音の密度感、圧迫感
  • 前者は明らかに客観的な値で後者は明らかに主観的な値で全く別のものを指します。前者が元々の音圧ですが、後者も慣用的に音圧という言葉で表現されることが多く、この2つは混同されがちなように思います。

    前者の音圧を高めようと思えば再生機器のボリュームコントロールを上げればOKですが、後者を高めたい場合デジタル領域での信号処理でしか解決することは出来ません。

    ここで気になるのが後者の音圧の高め方ですが、一つの重要な考え方として音圧は良いエンジニアリングした時に結果的に高まるというものがあります。音圧を高めるための小手先のテクニックを追い求めるのではなく、音楽的により良い表現を目指し、より美しい音を沢山聴いてそれを自分の手で再現しようとし続ける過程の中で自ずと高まっていくのが音圧です。

    仮にOzoneのMaximizerをマスターにインサートしてThresholdを大きく下げていったとしても、それは音圧が高まったのではなく平均レベルが上がっただけです。音圧を求めてMaximizerを使うとほぼ確実にミックスに悪影響を及ぼすのでご注意下さい。

    ところでdBって何?

    音楽を作っていると至るところに当然のような顔をして現れるdBという単位があります。読み方はデシベルです。

    dBというのは最も大きい音と現在の音の大きさの比率です。しかし、おそらく人間にとってもっと直感的に比率を扱える単位があるとすれば%だと思います。

    ではなぜ音量を表す時に%を使わないのでしょうか?それは、人間の感覚と%が全くリンクしないからです。例を挙げてみましょう。

    あるレベルの信号を-10%、-20%、-30%、-40%…-100%と順々に小さくしていくと、耳で感じる音量も等間隔で下がっていくように感じるかというと全くそうではありません。-50%あたりまでは非常に緩やかに音量が変化し、-80%を超えたあたりから急に音が小さくなり始め-100%で突然居なくなります。

    一方、dBを使うことで人間の感覚に近い音量変化を起こすことが出来ます。-10dB、-20dB、-30dB…と順々に小さくしていくと、耳で感じる音量も%と比べるとかなりリニアに下がっていくことがわかると思います。

    DAWや波形編集ソフトで扱われる音量の単位がdB以外であるケースは無いと思って差し支えないですが、動画のオーサリングソフトやゲームの開発環境においてはその限りではありません。なので、これは特に動画編集をされる方やゲームを開発される方にとっては重要な性質かもしれません。

    高校で数学を選択した方向けに少しだけ性質の解説をすると、例えば元の信号の大きさが32,768(単位なし)だったとして、半分の16,384になった時に約6.020dB下がり、その半分の8,192になった時にさらに約6.020dB下がるといった指数的な性質を持ちます。1まで下がる時には大体90dBくらい下がっている計算になります。興味のある方は数式を検索してみて下さい。

    まとめ

    音量に関わる単語が色々とあって最初のうちはどれが何を意味するのか分かりづらいかもしれませんが、正しく把握することで色んな音量操作を明確な意図を持って行えるようになるでしょう。