チュートリアル

良いミックスってなんだろう?【ミックスマスタリング学園#18】

2023.12.11

Nectar 4やOzone 11の使い方を解説しきるまで動画制作に集中していてブログはかなりお久しぶりです。数ヶ月ぶりのミックス/マスタリングのTipsをお伝えする記事としてどんな内容が良いかなやんだのですが、今回は「良いミックスってなんだろう?」という疑問にフォーカスしていきたいと思います。

結論: アーティストのビジョンを実現するのが良いミックス

ミックスは常に、楽曲が先にあります。そして、ミックスの役割は楽曲を作った人間がその楽曲で表現したいことを正しく実現することです。

数十年前とは異なり、今ではミックスをPCやMacの中で簡単に完結させることができ、導入コストも比べ物にならないほど安くなりました。これによって、特にビギナーにとって音楽を作るという言葉の中に実質的にミックスやマスタリングが含まれるようになりました。僕とミックスの出会いもご多分に漏れず「自分の作った曲を世に出せる形にする」上での必然的なものでした。

だからこそ、今エンジニアを志す、またはエンジニアリングを行っている多くの人の心の中で「ミキシングはテクニカルなもの、技術によって良し悪しが決まるもの」という意識が浸透しているかもしれません。それはある面において真実ですが、ミキシングが本来果たすべき役割を見落としてしまっているとも言えます。

自分の曲をミックスするということは、ミックスを始める前からある程度どのような形に仕上げたいかのビジョンを思い描けているということです。つまりミックスをする上で最も重要で困難な部分を最初から乗り越えた状態で作業を始められるということです。その楽曲が目指すべき形が見えているからこそ、それを実現する技術的な側面に意識が集中するのです。

 

良いミックスをするには?

さて、技術的な側面の話をするととんでもなく長くなるので今回はアーティストのビジョンを理解するという点について掘り下げていきたいと思います。

まず、アーティストのビジョンを読み解くためにラフミックスやデモほど有益な手がかりはありません。どの楽器がどんなバランスでどんな役割を担ってほしいのか、多くの場合デモの中に答えがあります。なのでミックスに着手する前にデモを聴く必要があるのです。

ではデモの中から様々な情報を読み取った後ミックスに落とし込んでいくためにはどんな経験や知識が必要でしょうか。まず重要になってくるのが音楽を沢山聴いていることです。全く聴いたことの無いジャンル、全く聴いたことの無い楽器の音というのはミックスの中でどのように扱えばいいかアイデアを捻出するのが難しくなります。幅広く音楽を聴いて、どんな音がそのジャンルにおいて主流であり受け入れられているのかを理解することはとても役に立ちます。

また、この時レコードを聴くだけではなくコンサートやライブに行くこともオススメです。特に生楽器の場合、お互いの生音のバランスや音色がどんなものかを理解することはミックスの中でトーンやバランスを考える上で非常に役に立ちます。

音楽を沢山聴くだけでなく、音楽を作ってみることも非常に役に立ちます。作編曲を自らやってみると、音楽の良い流れやダイナミクス、彩りみたいなものを意識するようになります。ミックスの中でこれらを上手く引き出すためにオートメーションを書く場面もあるかもしれませんが、自らが音楽を作った経験のある人の方がより有機的で意味のあるオートメーションを描けるようになるはずです。

ビジョンなく使われるツール、技術は楽曲を破壊する

こうした「その曲をどういう形に仕上げるべきか」を考える力があって初めて、技術やツールは意味をなします。そして繰り返しになりますが、その楽曲のあるべき形を決めるのはエンジニアではなくアーティストです。

ミキシングは自分のテクニックをひけらかす作業ではありませんが、自分の曲だけをミックスしているとそれに気づくのが難しいのもまた事実です。なので、ミックスが上手くなりたい人は他人の曲をミックスするのがオススメです。自分の曲をミックスするよりも多くの発見がそこにはあります。色んなアーティストのビジョンに触れて、ミキサーとしての語彙力を増やしていくことで最初に書いた「アーティストのビジョンを実現する」という最も重要な要件を満たせるようになっていくのです。

最初のうちにやってしまいがちなのが、自分がミックスしたという爪痕を残すために楽曲にそぐわない過剰なプロセスを多用してしまうことです。その音を求めて依頼されているケースも無いとは言いませんが、基本的には黒子に徹するくらいの意識でミックスした方が喜ばれる確率は高くなります。

ミキシングはクリエイティブなタスクですが、アートの中心にあるものではなくアートの表層に薄皮一枚存在しているもの、くらいの認識でいる方が良いミキサーになれるでしょう。

どのようなミックスにすべきか悩んだら

ミックスの中で様々なトラックを扱っていると、ふと今自分が聴いているトラックにどのようなプロセスを入れればいいのか悩むことが多々あると思います。特に初心者にとって、勘所の無い楽器をどのように扱うかは悩みどころだと思います。(そういう時は何もしないのが正解だったりしますが)

このように困った時に役に立つのがNeutronやNectar、Ozoneのアシスタント機能です。iZotopeのアシスタントは正解を提供するものではありませんが、叩き台を提示してくれる点でミックスを加速させてくれます。

例えばいざミックスを始めたタイミングで完全にドライなボーカルステムと対峙した時に何から手を付けていいか分からず途方にくれてしまうかもしれませんが、NectarのVocal Assistantを使うことでとりあえず音量感、存在感が均一になり、抜けの良し悪しを手っ取り早く変える事ができます。

 

ボーカル以外の楽器についてもNeutronのアシスタント機能を使えばその楽器にとって一般的に好ましいとされるトーンがどういったものかを提示してくれるので、それに従うかそこから外れるかという二択にまでミックスの第一歩を限定することができます。

 

マスタリング用ツールのOzoneのアシスタントも意外なことにミックスに関する手がかりを多く提供してくれます。ボーカルバランスは適切なのか、各帯域のバランスはその音楽の一般的な音からかけ離れていないか等、ミックスを進めていく上で必要な情報を客観的に得ることが出来るため、ミックスの中でも積極的に使うことができます。

 

まとめ

良いミックスを実現するためには、ミキサー自身が音楽家としてアーティストのビジョンを理解し、エゴに振り回されることなく黒子として楽曲に向き合うことが重要です。そのためにも、様々な音楽を聴き、様々なアーティストの楽曲をミックスすることでミキサーとして、また音楽家としての語彙力を増やしていくことが出来るでしょう。

そのレベルアップの過程でアイデアに困った時に頼れるのがiZotopeのアシスタント機能です。アシスタントは決して初心者を救済するだけの機能ではありませんので、上手く活用して作業の効率化や新しい着想を得るヒントとして活用して頂ければ幸いです。