チュートリアル

熟練度別Ozone Master Assistantの使い方【ミックスマスタリング学園#19】

2023.12.25

2017年にOzone 8で登場して以来Ozoneの中核に存在し続けるMaster Assistantですが、使う側の熟練度に応じて異なる接し方が出来ることを本記事では紹介していきたいと思います。

Master Assistantはその名の通りマスタリングをアシストしてくれる存在です。AIの力を使っていることもあってか、どうしても全自動マスタリング機能と誤解されがちですが、熟練度が高ければ高いほどそれ以上の恩恵を受けることができます。

初心者の場合: 全部おまかせ

初めてDAWで楽曲を形にしましたという方にとって、それが自分の曲であれ他人の曲であれマスタリングというのは未知の領域だと思われますし、なんならマスタリングという言葉さえまだ知らないかもしれません。

そんな時に脳裏をよぎるのは「この状態で世に出してしまって大丈夫だろうか」という不安だと思います。メーターの見方の分からない、ラウドネスという言葉も聴いたことはあるけど何を表すのかまでは把握していない、といった状態でもなんとなく楽曲を完成させるための仕上げの工程が必要なことは感じ取っている、みたいな状況でMaster Assistantは非常に頼りになります。

Master Assistantを使えば、マスタリングで何をすればよいかまでは分からなくてもある程度リリースに適うクオリティの状態に引き上げることができます。ここで言うクオリティとは音の善し悪しといった主観的な美学によるものだけではなくラウドネスやピーク値等のオーディオとしての品質の話でもあります。YouTubeに公開しようと思っていた音源だけどマスタリングをしなかったせいで出来上がったのが-24LUFSだった、みたいな事態を防ぐことができます。

その上でMaster Assistantはジャンルに応じたマスタリングの選択肢を複数提示してくれるので、とりあえずはその中から一番自分が聴いていて気持ち良いかもと感じるものを選べば最低限マスタリングで超えなければならないステップを予備知識無しで超えることができます。

と考えると、OzoneのバージョンとしてはElementsでも十分役に立つことがわかります。もし何か変えたいというアイデアがあればEqualizerの量を調節してみても良いと思いますが、基本的にはAssistantが提示してきたものを鵜呑みにしても大きな問題は起きないはずです。最初に全自動マスタリング機能というのは誤解だと書きましたが、入り口としてはそういう使い方をするだけでも十分に有益だといえます。

慣れてきたら: 意図を探る

ある程度ミックス、マスタリングに慣れてきて自分の好みの音が定まってきて、そこに向かうためにEQやコンプレッサー、リバーブ、ディレイ等様々なツールがあることを認識しそれらの使い方を感覚的に理解するようになると、徐々にMaster Assistantの提案するマスタリングに対して疑問や異議が生じてくるかもしれません。

そうなったら次のステップへ進むタイミングが来たと考えてみましょう。Master Assistantによる提案は全てOzoneの中にあるモジュールの組み合わせで行われますので、その中のどのモジュールが音に対してどのような影響を与えているのか、一つずつon/offしながら確認することができます。その過程でMaster Assistantがなぜそのような判断をしたのかを想像し、共感できるものを採用し取り入れて、意図にそぐわないものを却下することによって、自分の中のマスタリングの音作りの引き出しやミキシングのバランス感覚が培われていきます。つまり、Master Assistantを自分のマスタリングの先生として扱うことができます。

ここまでくるとOzoneの中で何が起きているかを詳しく知る必要があるため、Ozone 11 StandardまたはAdvancedを選ぶのがよいでしょう。

上級者の場合: うまく聞き流す

ゆくゆくはミックスやマスタリングにおける意思決定を全て自分で行えるようになっていくと思います。そのようなステージに達している人に対してMaster Assistantがどのようにアシストしてくれるのかというと、まさしくアシスタントとしてのお手伝いをしてくれるようになります。マスタリングのスタート地点を作って時短に繋げてくれるだけでも便利ですが、それと同じくらい便利なのが絶対に疲れることのない2つ目の耳として機能してくれるという点です。ある意味においてはメーターの一種と言うこともできるでしょう。

全く手つかずの状態のファイナルミックスを受けて聴き込んでさあどこから手を付けていこうかと考えるよりは、一旦Master Assistantに聴かせてみてその結果をたたき台としてありか無しかを判断する方が作業をスムースに始められる場合もあるでしょう。

また長時間作業をしているとどうしても耳が疲れてきて正確な判断ができなくなりますが、Master Assistantの提案を受けることによって現状の手元の音がどれくらい意図するバランスとずれて来ているのかを正しく把握することができます。実はこの部分が非常に重要で、特にミキシングの中盤においてMaster Assistantを使うと、完成に向かってなるべく一直線に向かう上で極めて重要な情報を得ることができます。

例えばEqualizerモジュールをon/offすれば、今自分にとってナチュラルだと感じられている音が実際にどの程度偏ったトーナルバランスになっていたかを認識できますし、Impactモジュールをon/offすればキックやスネアのアタック感が過不足なく出ているのかを確認することができます。

ここで重要なのはMaster Assistantの提案を見た上で話半分で上手に聞き流すことです。あくまでMaster Assistantの提案はアシスタントの言うことであって、メインのエンジニアは自分自身です。あまり真に受けてしまうとアシスタントの奴隷になってしまって納得の行く結果に結びつかないことが多いでしょう。

Ozoneのツールの中には非常に強力なものもあり、問題を上手く解決することもできる一方で新たな問題を作り出してしまうリスクを孕んだものもあります。ですので、細心の注意を払ってご使用いただくか、いっそトラディショナルなツールで同様の効果、結果を目指すとより自然な仕上がりになることもあるでしょう。

 

まとめ

このようにMaster Assistantは使う側の熟練度に応じておまかせできる存在にもなり、先生にもなり、アシスタントにもなる頼れる存在です。使い方を決めつけ過ぎず、自分にとって使いたい方法で使うのがMaster Assistantを使いこなすことに繋がるのではないでしょうか。