チュートリアル

宅録の注意点part2【ミックスマスタリング学園#23】

2024.02.26

前回の宅録の注意点の記事から時間が経ってしまいましたが、今回の記事では前回の続きを議論していきたいと思います。前回のブログ記事は下記のURLからどうぞ。

宅録の注意点part2

部屋の反響に対処する

レベルやフォーマットが決まったら実際に録音を行っていくことになりますが、自宅での録音でまず最初に問題になるのが部屋の響きがテイクに混入してしまうことです。実際に耳で聞いている分には気にならない(意識しない)響きでも、いざマイクを通して録音すると思いの外はっきりと感じ取れてしまうことに気づくでしょう。

これらの反響に対処するための機能がRXにはあります。例えばボーカルテイクに入ってしまった響きはRX ElementsであればRepair Assistantで対処することができます。RX StandardであればDe-reverb、RX AdvancedであればDialogue De-reverbも有効かもしれません。

 

 

しかし、仮に響きが美しくデザインされたレコーディングスタジオで響きごと録音したいなどの事情が無い限り、やはり最初からテイクに響きを録らないのがベストであることは間違いありません。そのためにも、響きの原因を探る必要があります。

まず最も宅録で響きの元になるのは向き合った硬い平面です。最近引っ越された方であれば想像しやすいと思いますが、家具が入っていない部屋というのは思いの外激しく響きます。そしてそこに家財道具を搬入していく過程でみるみるうちにデッドな空間へと変わっていく体験をされた方もいると思います。つまり、一般的にものが多い部屋ほど好ましくない響きが少なくなると言えます。

しかし、自ら好んで部屋を散らかしたいと考える人は稀でしょう。なんとかして部屋を散らかさず、でも部屋を散らかした時のような適度なモノの配置を実現することを目指すのです。

とはいえ模様替えとなるとハードルが一気に高くなります。なので、特に響きへの対処として効果の高い秘密兵器「柔らかい布」を試してみましょう。窓ガラスであればカーテンを、床であればカーペットや絨毯を使うだけで随分部屋の響きは抑制されます。窓が無い壁面でも、録音用にカーテンを吊るしてもいいかもしれません。天井は対処が難しいですが、その分側壁と床を柔らかくすることには気を遣いたいところです。

また、ボーカルに関しては最終手段としてマイクごと毛布を被って録音するなんてことも考えられます。夏場は特に健康を害する恐れがありますが、響きへの対処としては大きな効果が得られるでしょう。

いわゆる吸音材を購入して壁に貼り付けると見た目も映えますし効果も高いですが、そういった大きめの投資をする前にまず部屋の中にあるもので響きを殺す努力をしてみるのは何かと有益なのではないかと思います。

下記の生配信アーカイブでもこのあたりの話をしています。(時間指定リンクです。埋め込みが機能しない場合はこちらをご覧ください。)

 

ノイズの混入を防ぐ

ノイズといっても色々ありますが、自宅で録音していて最初に気になるのは空調やファンのノイズではないでしょうか。これも勿論RXを用いて簡単に抑制することは出来ます。RX ElementsであればRepair AssistantやVoice De-noiseで、RX Standard以上であればSpectral De-noiseも有効です。声をもっと手軽に処理するのであればVEAも便利でしょう。

 

 

RXで取り除くことができるとはいえ、最初から録音に入っていない方が望ましいことに変わりはありません。PCファンやエアコンのファン、冷蔵庫等家電の動作音やアナログ時計の秒針の音など、色々と対処出来そうなノイズ源はあります。

PCファンであれば少しでもマシン負荷の低い状態を作り出してファンが回らないよう工夫し、エアコンは録音中だけ我慢し、冷蔵庫等その他のノイズの元とはなるべく距離を取るようにして下さい。この時期であれば加湿器の音も邪魔になるかもしれないのでご注意ください。

そして、マイクの指向性も意外と重要です。全指向性で録るとマイクの側面や背面からも等しく音を拾ってしまいますが、カーディオイド等の単一無指向性にすれば真後ろの音だけはキャンセルすることが出来ますし、双指向性にすれば側面からの音を打ち消すことが出来ます。もしかしたらマイクの置き方や角度一つでノイズが数dB減った!なんてこともあるかもしれません。

エレキギタリストが気をつけたいこと

ここまではマイクを使った録音で生じる一般的な問題を避けるための議論をしてきましたが、ここからはエレキギタリストに特化した注意点を2つご紹介します。

1つ目は歪みの量を抑えるということです。ロックギタリストであれば歪み、ディストーションは音作りの一環として非常に重要な要素となって久しく、弾きやすさにも大きく影響する要素といえます。

歪みが増えるほど音は出しやすくなり、また止めづらくなります。特に難しいフレーズを録音する時、歪みを増やした方が楽に弾ける気がするというのは多くのギタリストが経験したことがあると思います。

しかし、歪みは増えれば増えるほどアタック感が損なわれ音抜けが悪くなり、より広い帯域を占有するようになるため他の楽器が鳴るスペースを簡単に食いつぶしてしまいます。

なので、録音の際は思ったよりも少ない歪みでしっかりとしたタッチで弾くことを心がけた方が結果的に存在感のある、他の楽器を邪魔しない音で録れるのです。

また2つ目の注意点として、アンプやシミュレーターで処理されていない生の音(ダイレクトの音)を一緒に保険として録音することが挙げられます。これをしておくと最悪録音後にどうしても音色を作り変えなければならない場合にアンプの音作りまで戻ってやり直すことが出来ます。これをリアンプと言い、やらずに済むのであればやらないに越したことはないプロセスなのですが、リアンプが出来るようにしておくことと最初からリアンプの可能性を切り捨てることの間には大きなリスクの差があります。

特に、他人から宅録を依頼された場合はもしギターの音色が気に入ってもらえなかった時のことも考えてダイレクトの音を一緒に録音しておくのがオススメです。ちょっとズルですが、リアンプ用にダイレクト音を録っておけば録音の時だけ深い歪みにしておいて録音後に歪みを減らすことも出来るので、少ない歪みでストレス無く弾くのが難しい方はそういった裏技も試してみるといいかもしれません。

まとめ

2回にわたって自宅録音の注意点を挙げてみました。素晴らしい音を録ることも重要ですが、その前に悪い音を録らないというゴールを達成することがとても大事です。そして、悪い音は少しの意識と知識で回避することが出来る場合があります。金銭的な投資をする前に今ある環境で出来ることが無いかを検討してみるのも大事かもしれません。そしてもし望ましくないテイクが録れてしまった場合はRXで対処してみてください。