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マスタリングにおける5つの着眼点①【ミックスマスタリング学園#6】

2023.03.27

マスタリングにおける5つの着眼点①(この記事)
マスタリングにおける5つの着眼点②

マスタリングは音楽をリスナーに届ける上で最後の仕上げを行う重要な品質管理の工程です。この記事では、マスタリングで具体的にどんなことを考えるのか例を挙げてみます。

1: どれくらいラウドに仕上げるのか

恐らくマスタリングで最初に決めるのは、そのマスターをどれくらいラウドに仕上げるかということです。よりラウドに仕上げようとすればするほど、ケアしなければならない問題は増えてきます。

ラウドネスノーマライゼーションが一般化した現状において不必要にラウドネスだけを追い求める必要はなくなりましたが、それでもミックスのバランスを保ったまま適切なラウドネスを実現するためには優れたマキシマイザーが必要です。プラットフォームによりその基準はまちまちですし厳密な計算式が明かされていないこともありますが、概ね-14LUFS Integrated付近が有意義に使えるラウドネスの上限だと考えておくと安全でしょう。

Ozone 10のMaximizerモジュールを使えば、ミックスのバランスを破綻させることなく心理的な音量だけを安全にブーストすることが出来ます。

信号がMaximizerのスレッショルドに届くとリダクションが発生し、少なからず音に変化が現れますが、Ozone 10のMaximizerでは信号がスレッショルドに到達する前からソフトクリップさせることによって音への影響を最小限にとどめつつラウドネスを高められるようになりました。

画面中央付近のSoft ClipをL(Low)、M(Moderate)、H(High)から選びパーセンテージを上げると、ソフトクリップされた信号がオリジナルの信号とブレンドされ、リダクション量が変わらないまま聴感上の音量だけが高まっていきます。

L、M、Hではそれぞれスレッショルドの-3dB、-9dB、-20dBからクリッピングが生じ始め、Hが最も音への影響が大きくなります。多くの場合においてはLの設定で十分な効果が得られますが、MやHに設定して少しだけ混ぜていくといったアプローチが有効なこともあるでしょう。実際の音の変化は下記の動画でご確認下さい。

 

2: トーナルバランスの確認

目指す音圧が決まったらトーナルバランスを見直してみましょう。ミキシングの時とは意識を切り替えて俯瞰的に楽曲を聴いてみて、ブースト/カットした方が魅力的に聞こえるポイントにEQを入れていきます。注意したいのは、ここで追加するEQは全ての楽器に影響を与えるためミックスの時よりも慎重に行う必要があるということです。とはいえ、いきなりEQを入れるには勇気が要るかもしれません。

iZotopeはトップチャートの楽曲をジャンルごとに解析した特性のデータをOzone 10の中に保持しており、Stabilizerモジュールを使うことでその最大公約数的に良いとされるトーナルバランスに近づける処理を行うことが出来ます。

黄色の枠内のジャンルリストからその楽曲にマッチしているものを選ぶと、そのジャンルに適したトーナルバランスになるように各帯域が動的にカット/ブーストされるようになります。

Amountを調整することで処理の強さを変えられる他、Low、Mid,Highの上のコントロールを操作することで帯域ごとの処理の強さを調整することも出来ます。Shapeモードではブースト、カットを両方行いますが、Cutモードにすると目立ったレゾナンスのカットだけを行い、ブーストを行わなくなります。ドラムやパーカッション等の成分がミックスの中から飛び出てくる場合はTame Transientsボタンを有効にすれば均してくれます。

Stabilizerの詳細は下記の動画でご確認いただけます。

 

もし音を真似したい、参考にしたい楽曲がある場合はそれをStabilizerのターゲットにすることも出来ます。ローカルにファイルを持っていない場合でも、AudioLensを使えばApple MusicやSpotify、YouTube等のストリーミングプラットフォーム上の音をリファレンスにすることが出来ます。

AudiolensはOSに常駐するアプリで、システムのオーディオ出力を解析することが出来ます。YouTubeやSpotify、Apple Music等で自分の好きな楽曲を再生しながら右上のCaptureボタンを押してしばらく待ってからStopを押すと、その楽曲のトーナルバランスやダイナミクス、ステレオイメージ等をAudiolensが解析してTargetsのリストに追加してくれます。このTargetsは後述のMaster Assistantでターゲットとして使うことが出来ます。

ここでご注意いただきたいのですが、再生するプレイヤーの音量を必ず100%にしておいて下さい。再生音量はキャプチャー結果へと影響を与えます。

Audiolensの詳細については下記の動画をご覧下さい。

 

この記事を書いた人
iZotopeアーティスト
青木 征洋
作編曲家/ギタリスト/エンジニア
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