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ボーカルのノイズ除去について①【ミックスマスタリング学園#9】

2023.05.08

ボーカルミックスにおいて、ノイズに適切に対処することはミックスのクオリティを高める上で非常に重要な要素です。RXを使えばボーカルトラックに混入しがちな様々なノイズに対処することが出来ますが、どのモジュールをどの順番で使うかはユーザーに委ねられています。

本記事ではRXの使い方の一例を提示し、自信を持ってボーカルをクリーンアップ出来るようサポートしていきます。

まずはノイズを知る

ボーカルトラックによくあるノイズには以下のようなものがあります。

  • リップノイズ
  • マイクの吹かれ、破裂音
  • 空調、PCファン等のベースノイズ
  • ハムノイズ
  • 壁の反響

これらに対処する上で最も重要なのはRXのモジュールを適切に選ぶ前に、録音時にこれらのノイズが混入しないように工夫することです。対処が難しいものもありますが、工夫や投資で防げるものもあります。

マイクの吹かれとは、歌っている時の息がマイクのダイアフラム(音を拾うパーツ)に直接当たってしまうことで生じる低音の突発的な盛り上がりです。特にBやP等の子音を含む破裂音で生じるもので、これはポップガードを適切に設置しマイクのダイアフラムから適切な距離、角度を取ることで軽減出来ます。ポップガードとは、口とマイクの間に設置するスクリーン、フィルターのことで、音を通過させつつ息を通過させない効果を持ちます。また、マイクと口の距離が近過ぎると息がダイアフラムに当たりやすくなるだけでなく近接効果と呼ばれる現象により不必要にローが盛り上がった状態で音が録れてしまいます。

ベースノイズはマイクを立てる位置や角度、指向性の選択で緩和出来ることがあります。なるべく空調を控えて服装で上手く調節したり、PCを買い換える機会があればファンレスのモデルもしくは排熱効率の良い静かなものを選ぶことで対応出来ます。マイクをノイズ源から遠ざけることも重要ですが、例えば単一指向性のマイクであれば音を発するものに背を向ける形でマイクを立てることでもノイズの混入を軽減することが出来ます。

壁の反響はRXでの対処が最も難しい問題の一つなので出来る限り録音の段階で対処する必要があります。固くて平らな面を減らし、柔らかくて表面積の多い面を増やすことが重要です。反響の緩和には2つのアプローチがあり、1つは響きを減らすこと、もう1つは響きを美しくすることです。壁が柔らかい方が音をよく吸収するため、カーテンやカーペット等は非常に有効です。可能であれば録音の時だけ硬い壁の前に毛布の類を吊るすだけでも大きな効果が得られますが、予算に余裕があれば吸音ボードを導入するのもおすすめです。音の響きを美しくするためには室内から平らな面を減らして凸凹した面を増やすことが重要です。よく板チョコやカレールーに例えられるような吸音材はこの役割も果たしていますね。

対応するモジュール

それぞれのノイズに対応出来るRXのモジュールの例は以下の通りです。

  • リップノイズ → Mouth De-click、De-click、De-crackle
  • マイクの吹かれ → De-plosive
  • ベースノイズ → Voice De-noise、Spectral De-noise
  • ハムノイズ → De-hum
  • 壁の反響 → De-reverb

これらのモジュールは全てRX Standardに入っています。

どの順番に対処していくべきかはユーザーの好みによる部分も大きいですが、考え方の一例としてノイズを除去するために一旦ノイズを記憶する必要があるモジュールから順に使うと安全でしょう。上記の例だとVoice De-noiseやSpectral De-noise、De-hum、De-reverbがそれにあたります。

これらのモジュールは混入しているノイズを学習させて、それを手がかりにオーディオ全体のノイズだけを取り除く力を持っています。なので、あるモジュールを使うことで他のモジュールが必要としているノイズを消してしまわないよう気をつける必要があります。

De-reverb

De-reverbは手がかりを失いやすいモジュールの一つと考えられます。De-reverbを使う際はノイズフロアから始まる数秒間をプログラム内で選択肢、Learnボタンを押して響きの特徴を覚えさせます。

その後Reductionのパラメータでリバーブの量を調節します。マイナスにすると響きが増えます。部屋鳴り感が強い場合はTail lengthとArtifact smoothingを下げてみて下さい。声が不自然になってしまうと感じた場合はOutput reverb onlyボックスにチェックを入れて、ドライの成分が削られてしまっていないかを確認してみて下さい。De-reverbの詳細な使い方は下記の動画も参考にしてみて下さい。

 

Voice De-noiseとSpectral De-noise

De-reverbと同様にノイズ除去のために手がかりを必要とするのがVoice De-noiseとSpectral De-noiseモジュールです。これらを効果的に用いるためには波形の中にベースノイズだけの成分が存在していることが望ましいため、録音後にテイクの前後をトリムしてしまう前に使用して下さい。

まずはベースノイズだけの部分を選択したらLearnボタンを押してノイズの特徴を覚えさせます。

Spectral De-noiseの場合このようにノイズプロファイルが学習されます。

Voice De-noiseモジュールの場合も同様にノイズプロファイルを学習させます。

学習させたらいずれのモジュールもThreshold、Reductionの2つのスライダーを調節します。Thresholdを上げるとより多くの情報がノイズとして扱われるようになりますが、必要な情報を取り除いてしまわないように注意して下さい。迷ったらとりあえず0dBのままにしておいて問題ありません。

Reductionは実際にノイズを減衰させる量を指定します。上げるとより大胆にノイズを減らしますが、こちらも音が不自然になってしまわないよう気をつけながら調節して下さい。

Spectral De-noiseではスライダーの下のリンクアイコンをクリックすることでノイズをNoisyとTonalの成分に分解することが出来ます。Noisyは全帯域に満遍なく存在するノイズで、Tonalは特定の周波数に偏った音程感のあるノイズです。空調やPCのファンはその回転数に応じて特定の周波数にピークが現れることが多いため、Tonalのスライダーによく反応するでしょう。非常に明確に音程が聞き取れる場合は後述のDe-humモジュールもおすすめです。

Spectral De-noise、Voice De-noiseの使い方はこちらの動画をご参照下さい。

 

De-hum

ハムノイズとは主に電源に由来する50または60Hzとその倍音を含む「ブーン」というノイズです。本来は機材の電源周辺の接続を見直して解決することが望ましいですが、録音に紛れ込んでしまった場合はDe-humで対処することが出来ます。

ハムノイズだけが存在する区間を選択肢Learnボタンを押すと、Frequencyがハムノイズの基本周波数に設定されます。そのままRenderボタンを押せばハムノイズを取り除くことが出来ますが、スペクトログラムを見た時に倍音がそれほど顕著に存在しないようであればHarmonicsのパラメータを減らしてしまって問題ありません。

また先述の通りDe-humモジュールは空調の駆動音を除去するのにも適しています。ハムノイズの場合と同様にノイズが存在する区間だけを指定してLearnをクリックすると、空調のファンの周波数にFrequencyが合わせられます。

この場合特に倍音は見当たらないためHarmonicsを1にしてしまって問題ありません。

この状態でRenderを押せば、空調の動作音だけが上手く抑えられたことがわかります。

De-humの使い方については下記の動画も併せてご覧下さい。

 

次回:ボーカルのノイズ除去について②【ミックスマスタリング学園#10】