チュートリアル

プリセットを有効活用する方法 前編【ミックスマスタリング学園#14】

2023.07.17

NeutronやOzoneといったiZotope製品に限らず、多くの音楽制作ツール、エフェクトにはプリセットが提供されています。プリセットは、特に不慣れな人が作業を始める際の指標として活用できるとても心強い存在です。

しかし、プリセットだけで作業しても上手く行かなかったという経験は誰もが経験していると思います。また、だからといってプリセットのどこを変えればいいのか分からないということもよくあることでしょう。

本記事では、プリセットが上手く作用しない原因や、プリセットから何を読み取るべきかのヒントを提供していきます。

プリセットが上手く機能しない理由

まず喩え話で説明するのですが、服を買いに出かけた時に店先のマネキンまたは雑誌のモデルのコーディネートに惹かれて真似してみたら全然似合わなかったという経験が誰にでもあると思います。それと同じことが、プリセットを使う時にも起きています。

プリセットが上手く機能しないのは、プリセット(コーディネート)を作った人が「こういう波形に使うだろう」と想定しているシグナル(マネキンやモデル)と、実際にユーザーがそのプリセットを適用するシグナル(自分)の性質(体型)が異なることが原因です。

裏を返すと、似合う服(エフェクト)を着たければ自分の体型(手元の波形の性質)を理解することが非常に重要なのです。

なので、プリセットを作った人と自分が全く同じ波形を持っていない限り、プリセットを自分の手元の素材に合うように作り替えていくという工程が必ず発生します。

ではその「プリセットを作った人が想定する音と自分の手元の音の性質の違い」にどんなものがあり、どう埋めていくかを考えてみましょう。

トーナルバランス

直感的に理解しやすいのがトーナルバランスです。これは特にEQに関する話になります。例えば、フラットな波形を若干明るくするためにハイをブーストするEQプリセットを既にハイ上がりでカリカリな音にかけてしまうとこれは不必要なブーストになりますよね。

またレゾナンスを除去するようなQの狭いカットEQが入っている場合、当然楽器のセッティングによってレゾナンスが現れる周波数は異なるためプリセットのままでは意図しない帯域をカットすることになります。

要するにプリセットは「カット/ブーストすべき帯域とずれている」状態なわけです。ここで出来ることは

  • EQノードを1つずつバイパスして、それぞれのノードがどのような意図で使われているかを考える。不要だと思ったノードはバイパスしてOK。
  • 各ノードの周波数を上下させて、より自然な音になる/耳障りさが抑えられるポイントが無いかを探す。
  • 各ノードのブースト/カット量を増減させて、より問題が上手く解決されるポイントが無いかを探す。

といった手順になるでしょう。

ダイナミクス

こちらはコンプレッサーが中心のトピックです。もしプリセットがコンプレッションを行う前のダイナミックレンジが広い波形に使うことを想定されていたとして、既に十分なコンプレッションがかかったシグナルに適用するとオーバーコンプレッションになるのは想像に難くありません。

また、生演奏の自然なバラつきやムラがある波形にかける想定のプリセットを打ち込みに適用しても余計に表情が失われてしまうでしょう。

プリセットを使う使わないといった議論に限らず、コンプレッサーを使う上で非常に難しいのが本当にコンプレッサーを使わずに問題解決出来ないか見極めることです。

なので、プリセットでコンプレッサーをかけた時に真っ先に試すべきことはゲインマッチした状態でそのコンプレッサーをON/OFFしてみることです。多くのケースにおいて、コンプレッサーを使わない方が自然な音になることに気づくと思います。

ここで重要なのはプリセットの意図を読み取ることです。例えばスネアのためのコンプレッサーのプリセットがあったとして、そのRatioやAttack Time、Release Timeを見ることによってどんな素材をどんな音に仕上げたくて作られたものなのかを想像することで、自分自身がコンプレッサーを扱う時のボキャブラリーが増えていきます。

例えばアタックが非常に短くRatioも高いプリセットに出会ったならば「ああ、これは鋭すぎて音が細くなっているスネアを太く聞かせるために浅めにかけようと思ったのかな。」といった想像をしてみてください。

そこから一歩進んでプリセットのパラメータを調整して音作りを行う場合、真っ先に調整すべきなのがInput、またはThresholdです。ほとんどの場合において、プリセットが想定しているシグナルレベルと手元のシグナルレベルは一致しません。なので、コンプレッサーに意図された挙動で動作してもらうためにInputまたはThreshouldを上下させる必要があります。これは後編で説明します。

意図されたレベルでコンプレッサーを動作させられる状態になったら他のパラメータを自由に調整して下さい。元の状態がわからなくなってもプリセットを再度読み込めば元に戻すことが出来ます。

後編はこちら