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コンプに関する5つのユニークな使い方

2020.04.06

これまでiZotope.comのウェブサイトで、何度もコンプを取り上げてきました。
そのプロセスについて紹介するビデオシリーズ「Are You Listening?」では、マスタリングにおけるコンプの使い方を紹介し、ブログではコンプに関するありがちなミスを取り上げてきました。
すべてのオーディオ処理と同様に、コンプには実験的な側面があります。
今日はこれについて紹介したいと思います。この記事ではコンプのちょっと変わった使い方を5つ紹介いたします。

1. Intentional over-compression of drums 『わざとドラムに過剰なコンプをかける』

皆さんは今まで過度なコンプは避けるべきだと教わって来たと思います。しかし、コンプレッサーを多めにかけることよって、ポンピングとブリージングの効果が得られます。このようにすれば、ドラムが不思議なサウンドに変わります。

一番古くて有名な例として、ビートルズの「Tomorrow Never Knows」が挙げられます。
よく聴くと、ドラムのサウンドが細かいサウンドに叩き潰されたことがわかります。
そしてシンバルはノイズの波になって、キックとスネアがミックスの上にポンピングしていることがわかります。
こんなワイルドなサウンドがやがてロックの定番になり、The Flaming LipsTame Impalaなどのグループもよくこのような潰れたドラムサウンドを実験していました。

ヒップホップやエレクトロニックミュージックにおいでも、過度にコンプレッションされたドラムサウンドが頻繁に使われています。リック・ルービンの音楽が好きな人は、おそらくビースティボーイズの飛び散るキックとスネアを聞き慣れています。
ケミカルブラザーズのようなビッグビートスターも、コンプを大量に使い回っていたことで有名です。

では、自分の音楽で試してみてください。
ゲインリダクションに多めにかけましょう(10 dBから始めて、ダイアルをいじって20 dBしてみてください)
アタックとリリースの時間を十分に短くして、早くコンプをかけて、次のビートの前にコンプを外すようにします。ウォームで丸いサウンドが欲しければ、Ozone 9のビンテージコンプレッサーのようなアナログスタイルのコンプレッサーを使ってみてください。
活気のあるセクションにおいてドラムLoopに変化を与えたい場合に便利なテクニックです。

2. Compression on the way in 『コンプをかけながら』

実際にはそれほど珍しいことではありませんが、コンプをかけながらDAWへレコーディングをすることにより、新人エンジニアが頭を悩ませる場合があります。
レコーディングとは、自然なパフォーマンスをキャプチャすることではないでしょうか。
確かに、ボーカル、ギター、ドラムをレコーディングの段階でコンプをかけながらとると、よりミックスに馴染みやすくなります。また、手動で調節しなければならないコンプの量やオートメーションの手間も減らしてくれます。
しかしここで注意しなければならないのは、決まった設定が全てトラックに記録されてしまうため、ミスをしたり収録結果が気に入らない場合、元に戻したくても戻れません。
この状況を回避するには、少し控えめな2:1または3:1のレシオと3〜4 dBのゲインリダクションから始めます。
アタックとリリースの時間はジャンルとパフォーマーによって異なりますが、コンプが邪魔をするような両方の時間が短いセッテイングを避けたほうがよいでしょう。
コンプでのかけ録りをしたくない場合は、ヘッドフォンミックスに一つのプラグインをさしてトラッキングしてみてください。
ダイナミックレンジを狭めることによって(狭めたバージョンを聞かせることで)、ソフトな音と大きい音の間のギャップを埋めることができ、より気持ちよく感情的なパフォーマンスが得られます。

3. Sidechain the entire mix 『ミックス全体をサイドチェーンする』

サイドチェーンコンプというのは、あるトラックをリファレンスとして別のトラックのレベルをコントロールする手法です。
プロデューサーとミキサーにとって、似たような周波数範囲を占める楽器を分ける時に役立つテクニックです。
例えば低めのパッドが低中音域のキックをマスキングする場合、キックをリファレンスとして、パッドがマスキングされた周波数に少しコンプをかけられます。
サイドチェーンコンプを1つの楽器だけをターゲットにする代わりに、ミックスのアウトプットにコンプレッサーをかけることをお勧めします。
こうすることにより、ミックス全体がサイドチェーンソースで制御され、そのサウンドに集中させることができます。
この手法は、Flying LotusKaytranadaの作品でよく聞こえます。キックが鳴るたびに、他の楽器はポンピングし、ユニークでアグレッシブなバウンス感を与えます。

このテクニックは、ドラムを強く叩くトラックや複雑なサンプル素材に最適です。
以下の例で確認してください。最初の部分はサイドチェーンがなく、フラットな感じがします。サイドチェーンを有効にすると、サンプルはビートと共に呼吸し、音楽性がより強くなります。

4. Create a fake LFO 『擬似的LFOを作る』

セクション3と同じ手法を使用しますが、サイドチェーンのソースをミュートして、最終的なミックスで聞こえないようにすることで、オーディオにリズム感が向上する珍しい方法が多く考えられます。
以下の例を聞いて見てください。ページを少しスクロールして、二つ目のクリップのサウンドを作る方法を説明します。
最初のクリップにはサイドチェーンコンプが使われていないことにご注意ください。

二つ目のクリップで聞こえるポンピング効果は、NeutronのCompressor(Ext Full)のサイドチェーンインプットを使って、ミュートされたキックドラムトラックによって作ったものです。
下のスクリーンショットをみれば、キックをリファレンスにして、ボーカルにかけたコンプが実際どのように動作しているかがわかります。
キックトラックがミュートされているため、実際の音は聞こえませんが、コンプはちゃんと動作しています。

デモンストレーションのためにキックをグリッドに合わせていますが、インパクトのあるレコーディングのためにグリッドから少しずらせば、より実験的なサウンドが得られます。

5. Distort the room 『ルームにディストーションをかける』

When you’re looking to bring some controlled chaos into a recording, send the audio to a short delay and place a brutal compressor (at least 10:1 and 40 dB of gain reduction) after it. This works well on any sound that already has a bit of roughness to it, like a crunchy snare, a raspy vocal, or mangled drums—but I’m sure you can find plenty of other uses. Have a listen to the before and after on an IDM-style beat.

強烈なエッセンスをトラックに取り入れたい場合は、まずトラックを短いディレイにセンドし、その次に深くコンプレッション(少なくとも10:1のレシオ、あるいは40 dBのゲインリダクション)をかけてみます。
このテクニックは、クランチスネア、荒いボーカル、潰れたドラムなど、元から粗いサウンドに最適ですが、他にもたくさんの使い道が考えられます。
IDMスタイルのビートのBeforeとAfterを聴いてみましょう。

果たしてここで何が起こっているのでしょうか?
まず、ドラムはスラップディレイ(Slapback)とEQがインサートされたリターンチャンネルにルーティングされ、1 kHz以上の周波数、主にキックの高域と金属ノイズだけを残します。
より一般的なドラムキットだと、スネアの高域やアンビエントマイクになるでしょう。
そして、下のスクリーンショットのような極端なコンプレッサーをかけると、ディレイを誇張し、ディストーションとブレスを足す役割を果たします。

ご自身のトラックにLo-fiな味付けを行い、騒々しさや空間を演出したい場合も、このテクニックを使うと良いでしょう。そのほか、同じ設定で短いボーカルサンプルを処理することもあります。コンプレッサーがディレイを抑制しているのが良く聞こえると思います。

結論として

パフォーマンスをよりスムーズにしたり、トランジェントをシェイプしたように、サイドチェーンによる通常の手法を超えて活用することで、あなたのオーディオに新たな息吹を吹き込む珍しいトリックがきっと見つかるはずです。
この記事にリストされている5つのテクニックは、より深く研究するためのスタートポイントにすぎません。